数論が好きなみなさんはきっと楕円曲線について勉強し、楕円曲線上の加群を知っていることでしょう。楕円曲線上の2点の和は、この2点を結ぶ直線と楕円曲線とが交わる第3の点のx軸対称の点とする、というものです。楕円曲線そのものがx軸対称なので、和の定義の点も楕円曲線に乗ることが分かります。

 

なんだか意味不明なこの定義、どこから来ているのでしょうか。一応上記の定義を式で書くと(概ね)こうなります。

P=(xp,yp), Q=(xq,yq)を楕円曲線y^2=a*x^3+b*x^2+c*x+d上の異なる2点として、P+Q=R=(xr,yr)を上記定義に従って計算すると(%o3), (%o4)のようになります。

(%i1) texput(wp, "wp")$
(%i2) E:y^2=a*x^3+b*x^2+c*x+d;
$$ ag{%o2} y^2=a,x^3+b,x^2+c,x+d $$
(%i3) X:x[r]=-x[p]-x[q]-b/a+1/a*((y[q]-y[p])/(x[q]-x[p]))^2;
$$ ag{%o3} x_{r}=frac{left(y_{q}-y_{p} ight)^2}{a,left(x_{q}-x_{p} ight)^2}-x_{q}-x_{p}-frac{b}{a} $$
(%i4) Y:y[r]=-y[p]+((y[q]-y[p])/(x[q]-x[p]))*(x[p]-x[r]);
$$ ag{%o4} y_{r}=frac{left(y_{q}-y_{p} ight),left(x_{p}-x_{r} ight)}{x_{q}-x_{p}}-y_{p} $$

ワイエルシュトラスの標準形の場合、a=4, b=0, c=-g2, d=-g3です。
(%i5) E,a:4,b:0,c:-g[2],d:-g[3];
$$ ag{%o5} y^2=4,x^3-g_{2},x-g_{3} $$
(%i6) X,a:4,b:0,c:-g[2],d:-g[3];
$$ ag{%o6} x_{r}=frac{left(y_{q}-y_{p} ight)^2}{4,left(x_{q}-x_{p} ight)^2}-x_{q}-x_{p} $$
(%i7) Y,a:4,b:0,c:-g[2],d:-g[3];
$$ ag{%o7} y_{r}=frac{left(y_{q}-y_{p} ight),left(x_{p}-x_{r} ight)}{x_{q}-x_{p}}-y_{p} $$

これが楕円曲線上の加法の定義となります。まあこの定義だけを見たところで意味が分かるわけではありません。

 

楕円曲線側ではなく、楕円関数側ではどうなっているのでしょうか。実は三角関数の加法定理のように、ワイエルシュトラスのペー関数にも加法定理があります。ペー関数の微分にも加法定理があります。それぞれ以下のような形の式で表されます。
(%i8) wp(x+y)=-wp(x)-wp(y)+1/4*((at(diff(wp(z),z),z=x)-at(diff(wp(z),z),z=y))/(wp(x)-wp(y)))^2;
$$ ag{%o8} wpleft(y+x ight)=frac{left(left.frac{d}{d,z},wpleft(z ight) ight|_{z=x}-left.frac{d}{d,z},wpleft(z ight) ight|_{z=y} ight)^2}{4,left(wpleft(x ight)-wpleft(y ight) ight)^2}-wpleft(y ight)-wpleft(x ight) $$
(%i9) at(diff(wp(z),z),z=x+y)=-(at(diff(wp(z),z),z=x)*(wp(x+y)-wp(y))-at(diff(wp(z),z),z=y)*(wp(x+y)-wp(x)))/(wp(x)-wp(y));
$$ ag{%o9} left.frac{d}{d,z},wpleft(z ight) ight|_{z=y+x}=frac{left(wpleft(y+x ight)-wpleft(x ight) ight),left(left.frac{d}{d,z},wpleft(z ight) ight|_{z=y} ight)-left(wpleft(y+x ight)-wpleft(y ight) ight),left(left.frac{d}{d,z},wpleft(z ight) ight|_{z=x} ight)}{wpleft(x ight)-wpleft(y ight)} $$

(%o8)が分かりやすいのですが、複素平面上の2点x, yを普通に足したx+yをペー関数に適用した結果は、ペー関数やその微分にxやyを適用した結果を組み合わせることで計算できる、ということです。この(%o8)をじっと見ていると、、、(%o6)と式の形が全く同じです。つまり複素数の「普通の足し算」をペー関数を通して見たときの規則(ペー関数の加法定理)を、楕円曲線上で幾何学的に解釈すると冒頭の幾何学的な定義になるわけです。

形だけ見れば、ペー関数の加法定理、というほぼ必然的な結果の楕円曲線上での幾何学的解釈、とも見えるわけです。一方、Q上3次不定方程式の有理数解の集合の構造、という意味ではフェルマーにも遡る古い歴史のある話でもあります。

このように複素平面上の自然な加法が楕円曲線上の幾何学的な加法を導く、というところまで、この2つの対象は深く結びついているのでした。